小説家になる方法

読者が「共感」できるキャラの書き方~村上春樹アンチに学ぶ~

2015/11/23

物語を創作するにあたって、キャラクターが感情移入できる造形をしているか否かは重要なファクターだ。今回は読者が「共感」や「感情移入」できるキャラクターの書き方について、現代日本の代表作家である村上春樹の作風と、その春樹アンチの意見を切り口に論じていく。

 

かの有名な「春樹アンチ」のamazonレビュー

今ネット上で一番有名な「春樹アンチ」は、村上春樹の最新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』にamazonで痛快なレビューをつけたドリー氏であろう。一時期話題にもなったのでご存知の方も居るかもしれない。

amazonレビュー「孤独なサラリーマンのイカ臭い妄想小説」By ドリー

なんとこのレビュー、現在2万5千人中、2万4千人の方が「このレビューが参考になった」と投票している。600を超える全レビュー中、圧倒的に支持されているナンバーワン・レビューなのである。読み物としても面白いので未読の人は一見の価値があるだろう。さて、そのレビュー中にはこんな一文がある。

”だってあれだぜ。ラストで恋人からの電話を待ってる時にオリーブグリーンのバスローズきてカティーサークのグラス傾けながらウィスキーの香りを味わってんだぜ? オリーブグリーンってクソ緑だぜ?趣味悪くね? そんで「孤独だ・・・・」とかつぶやいてんだぜ?石田純一なの?孤独ってこんなオシャレだっけ?こんなやつに感情移入なんかできませんわな・・・。”

この記事では、もはや文学的価値がほぼ揺るぎないものとされつつある村上春樹について批判するものではない。ここで頭に留めておいて欲しいのはドリー氏の「こんなやつに感情移入なんかできませんわな」というコメントである。もっとも、村上春樹の作風が「異様にオシャレ」なのはデビュー当時からのものではある。

デビュー作『風の歌を聴け』にはこんな一文がある。

”「気にすることはないさ。誰だって何かを抱えているんだよ。」
「あなたもそう?」
「うん。いつもシェービング・クリームの缶を握りしめて泣くんだ。」”

この文章に対して、『声に出して読みたい日本語』で有名な齋藤孝はこう絶賛している。

”それにしても握りしめる物がシェービング・クリームの缶というのは絶妙である。これがお茶やのり缶なら、もう少しイモくさい感じになっただろう。”

ここでの構図は「シェービングクリームを握りしめて泣くクールな主人公」と「のり缶を握りしめて泣くイモくさいキャラ」の対比である。「シェービングクリーム型」の主人公(キャラクター)は、確かにオシャレで、カッコイイ。中高生向けにライトノベルなどを書くにあたっては、「とにかく魅力的なキャラクターにしよう」という思いが先走り、キャラクターがむせび泣くシーンでは、ついついシェービングクリームの缶のようなものでも握らせてあげたくなるかもしれない。孤独に沈むシーンでは、オリーブグリーンのバスローブを身に纏わせたくなるかもしれない。それも魅力的なキャラではあるからだ。そうでなくても少しくらいはカッコのついた味付けをついつい筆にのせたくなってしまうときはあるだろう。もちろん作品の全体を眺めて、考えた上でそれがベストだと判断したのならばクリスタルの剣でもドラゴンの牙でも握らせればいい。

しかしここで思い出して欲しいのが「こんなやつに感情移入なんかできませんわな」という痛快な春樹アンチの一太刀である。「魅力的な造形にしよう」とするあまり読者に白けさせることがないように、くれぐれも気をつけたいものだ。「感情移入のしやすさ」という点では、「のり缶型」のキャラクター描写も考慮に値する選択肢のひとつだろう。

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